日本酒・焼酎

アメリカで日本酒「生酒」が熱狂的な支持を得るまでの軌跡

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アメリカで日本酒「生酒」が熱狂的な支持を得るまでの軌跡

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日本酒が「寿司のおまけ」だった時代のアメリカ

1990年代後半のアメリカでは、日本から輸出される日本酒のほとんどは、ニューヨークの日本食レストランでの消費に限られていました。ステーキハウスのような一般的なレストランでは、日本酒がメニューに並ぶことはまずありませんでした。そんな時代背景の中、2000年代初頭にサンフランシスコで、日本国外初の日本酒専門店「True Sake」が誕生します。創業者のボー・ティムケン氏は、当時のアメリカ市場における日本酒の流通状況について、「True Sakeは、小売店に需要が届く最初のパイプラインとなりました」と語ります。この時期は、特定名称のついた高品質な日本酒が、アメリカ市場で利益を生む可能性に気づき始めたタイミングでした。しかし、当時の日本酒の需要は、高級酒か、安価な普通酒の二極化しており、現在流通の大部分を占める中価格帯へのニーズはまだ存在しませんでした。まず、日本酒を安定した状態でアメリカへ届けることが喫緊の課題だったのです。

特定名称

日本酒の品質や製造方法によって定められた等級や種類のことです。例えば、大吟醸や純米吟醸などがこれにあたります。

輸入と流通の常識を変えた「JPSI」の挑戦

ボー氏によれば、地酒蔵の生酒をアメリカに初めて持ち込んだのは、「日本名門酒会インターナショナル」、通称「JPSI(Japan Prestige Sake International)」でした。株式会社岡永が1975年に設立した日本名門酒会は、全国約120の酒蔵の商品を扱う流通・啓蒙活動を行う組織です。その輸出部門であるJPSIは、アメリカで初めて日本酒の輸入・流通に特化した企業であり、日本酒流通の黎明期において、生酒を冷蔵コンテナで輸送するという前例のない挑戦を行いました。故・山崎和英氏(JPSI副社長)は、「日本酒は生鮮品と同様に扱うべきだ」という考えを強く推進していました。初期に輸入された生酒には、一ノ蔵の純米生酒や奥の松の「純米大吟醸FN」などがありました。JPSIの安定したコールドチェーン(※)による生酒の安全な輸送が実現すると、非日系のインポーターも生酒に注目し始めました。クリス・ピアース氏が設立したWorld Sake Imports(WSI)や、ニック・ラムコウスキー氏とエド・レールマン氏が創業したVine Connectionsといった企業も、生酒か火入れ酒かに関わらず、冷蔵状態での商品管理を徹底するようになりました。これにより、日本国内でのコールドチェーンの発達が、海外への輸出にも波及していくことになります。

JPSI

日本名門酒会インターナショナル(Japan Prestige Sake International)の略称で、日本酒の輸出入や流通を専門とする企業です。

コールドチェーン

冷蔵・冷凍が必要な商品を、生産から消費まで一貫して低温に保つための物流システムのことです。

生酒は今やアメリカで最も「クール」な日本酒

「True Sake」がアメリカ市場に貢献したことの一つに、季節限定酒という文化を根付かせたことが挙げられます。その多くが生酒であり、それぞれのシーズンにしか味わえない特別感が多くのファンを惹きつけています。ボー氏は、「かつては、二度火入れ(※)の酒でさえ冷やして飲むという考えを定着させるのに苦労していました。私はそれを“ホットサケ・ブルース”と呼んでいましたが、生酒がその考えを一気に覆してくれたのです」と語ります。「True Sake」をはじめとするアメリカの日本酒業界の努力により、冷酒が受け入れられただけでなく、現在では生酒がヒットするまでになりました。これに伴い、近年は温度帯を変えて日本酒を楽しむ文化も広がりつつあります。幅広い温度帯で楽しめる柔軟性は、数ある酒類の中でも日本酒の強みと言えるでしょう。メイ・ホ氏(「True Sake」ゼネラルマネージャー)は、13年間のキャリアの中で、生酒の需要が劇的に変化したことを目の当たりにしてきました。「私が働き始めた頃は、季節限定酒が入ってくるのは春と秋くらいでした。しかし、いまとなっては、春から秋にかけて20種類を超える生酒が届くようになり、完全に別世界になりました」と語ります。生酒の強みは、リピーターを生み出すことです。日本酒ビギナーは新しいカテゴリを学ぶ楽しさに、愛飲家はシーズンごとの違いに惹きつけられます。メイ氏は、「フレッシュなものって、みんなワクワクするんですよね。季節限定で、すぐに売り切れてしまうかもしれない特別感もあります。それに、生酒の味わいは本当にダイナミックで、経験者にも初心者にも美味しいと感じられる懐の深さがあります」と話します。メイ氏によると、生酒は同店の年間売上の10〜12%を占めており、「全体の中でいちばん売上が大きいわけではないですが、成長し続けているうえに熱狂的なファンが多い、伸びしろのあるカテゴリーです」とのことです。

二度火入れ

日本酒の品質を安定させるために、加熱殺菌を2回行う製法のことです。一般的な日本酒はこの方法で作られています。

コールドチェーンへの不安と現実

一方で、生酒の普及は多くの不安も生み出しています。特に、ワインを主な商材とする流通業者にとって、冷蔵コンテナ(リーファー)や港から倉庫までのコールドチェーン輸送は未知の領域でした。また、日本の酒蔵からアメリカの最終目的地に届くまで3〜5ヶ月かかることも懸念材料となっています。クリス・カブレラ氏(「True Sake」アシスタントマネージャー、インターナショナル・セールス担当)は、「アメリカの中でも、カリフォルニアがある西海岸は、フレッシュな生酒を受け取るのに有利な立地です」と分析します。「True Sake」があるサンフランシスコ湾岸地域では、日本からの直通ルートでオークランド港に生酒が到着し、近隣都市のディストリビューターの拠点へ直送できるため、鮮度を保ちやすいのです。近年では、火入れの日本酒しか扱わない酒蔵からも、コールドチェーンを活用した輸送が期待されていますが、そのコストが課題となっています。コールドチェーンの維持には費用がかかるため、いまだに常温で届けられる商品も存在します。国内の大手インポーターやディストリビューターは、日本酒を冷蔵では取り扱わない場合もありますが、日系の企業は日本酒の温度変化に関する知識が豊富で、基本的にすべて冷蔵で扱っています。さらに最近では、ワイン系の業者の中にも、日本酒のために本格的なコールドチェーンの整備に投資するところが出てきています。日本の蔵元の中には、アメリカの流通構造を十分に理解していない場合もあり、「なぜアメリカで生酒が求められるのか?」と疑問に思う担当者も少なくありません。

リーファー

冷凍・冷蔵機能を備えたコンテナのことです。温度管理が必要な貨物の輸送に用いられます。

3Tier制度

アメリカの酒類流通における制度で、輸入、卸売、小売の3つの業態を別々の法人とし、それぞれの役割を明確に分けるものです。

アメリカの生酒流通の未来

アメリカで生酒の人気が高まり続ける中、現地で手に入る味わいはますます多様化しています。ゾーイ・スー氏(「True Sake」シニアセールス)は、「酵母由来の香り、フルーティーさ、旨みこそが生酒の魅力です。私はいつも、ナチュラルワイン好きや日本酒初心者に強くおすすめしています」と、その複雑さを評価します。クリス氏は、「近年は、ワインのようにフルーティで、酸味が強く、軽い発泡感を持つ一度火入れのスタイルが増えてきています。昔のような、味がしっかりしてインパクトがある生酒だけの時代ではありません。ひと口に生酒といってもいろいろなタイプがあるので、お客さんにはどんな味わいが好きか必ず聞くようにしています」と語ります。また、サンフランシスコのSequoia SakeやオークランドのDen Sake Breweryといった地元生まれの酒蔵が生み出すフレッシュな地産生酒も重要な選択肢となっています。バークレーのTakara Sake USAでは、期間限定であらばしりを瓶詰めし、グラス販売を行っており、長年のファンだけでなく、ローカルでフレッシュな生酒を求める若い飲み手も魅了しています。メイ氏は、「特定の生酒ブランドには、カルト的人気とも言える熱狂的なファンがいます。以前はニッチなポジションだったのが、いまでは誰もが探し求める存在になりました。すごくクールなことだと思います。今後は、うすにごりやスパークリング、生酛造りやユニークな米品種を使った複合的な生酒スタイルもアメリカ市場に出てくると思います。フレッシュさと新しい体験を求める飲み手が増えているので、生酒市場はさらに伸びるはずです」と、その将来性を語っています。

あらばしり

日本酒の醪(もろみ)をしぼる際に、最初に出てくる部分のことです。フレッシュで荒々しい味わいが特徴です。

生酛造り

日本酒の伝統的な造り方の一つで、乳酸菌を自然の力で繁殖させて酒母(しゅぼ)を作る方法です。時間と手間がかかりますが、複雑で力強い味わいの日本酒が生まれます。

この記事は、生成AIにより執筆されています。

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